15分文学 「クリスマス」
「ニコさん。
明日、泊まりに来ませんか?」
私はもう何時間も、このメールを前にして、動けずにいる。
喜んで。
と無邪気に言うべきか、
礼央がいるから泊まりは、、と言うべきか。
いくら私に恋愛経験が少ないと言えども、泊まりの誘いの意味くらいわかる。
私とセックスしたいと言ってくれていることくらいは、わかる。
素直に認めると、私だって行きたい。すごく行きたい。
でも。夜に3歳児を放っていくほど、なりふり構わなくは、ない。
「いいじゃん、行っちゃえよ、礼央はグランマにお願いしてさ。もうキスしたんだから、子どもじゃあるまいし、先に進もうぜい」
わたしの中の小人が、ずっと囁いてくる。
わかってる。そんなこと。
わかってても、キスだけなのとセックスするのとでは、全然違う。
会社裏の駐車場、ぐっと抱きしめられたあの感触を思い出すだけで、体が熱くなる。
私たちが今この関係を、ギリギリ理性の範囲から出ないように保てているのは、その線を超えていないからなのはわかってる。
もし超えてしまえば、わたしはこの関係に飛びついていってしまうのもわかっている。
久しぶりに女として愛される、ということの甘さを、私は随分忘れてしまっていた。
礼央がいるのは、彼も知っている。
私が何よりも礼央を優先にするのも、知っている。
その上でこう誘うことが、どれほどずるいのかも知っているだろう。
でも、それでも、こんな風に誘ってくるところに、私はくらっと来てしまうのだ。
そしてそれが、ちゃんとクリスマスを外しているというところにも。
「母親であることと、女性であることは、どちらか一方だけを選ばないといけないことではないと、思う。もちろん、父親であることと、男性であることも、そう」
その言葉の意味を、噛みしめる。
いい加減、返事しなきゃ。
ぼんやりしていると、もう一度携帯がなった。
「困らせすぎたかな。少し反省しています。また改めて、誘わせてください」
それを見た瞬間、手が動いていた。
「礼央のこと、預けられるか調整してみます。もしそれができれば、是非」
送信を押す指が震えていた。
パタン、と携帯を閉じる。
どうか私がこの選択を
後悔する日が来ませんように
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15分文学 テーマ 「クリスマス」
2018.12.25