15分文学「タオル」
「洗濯しといたから。」
差し出されたタオルは、色褪せた水色。明らかに僕のもの。
「この間の飲み会の後、忘れてたでしょう。」
そう言ってつっけんどんに渡されたけど、それは綺麗にたたまれていた。
その場で匂いを嗅ぎたい衝動にとらわれる。
「ありがとう」
「別に。渡してって、頼まれたから」
愛想のかけらもなくいう君の言葉の裏に隠れた気持ちを探りつつ、うなづく。
本当に全く気にしてないなら、洗ったりしなくていい、はず。
そんなこと思うのはエゴかもしれないけれど。
「なくしたと思ってた。気に入ってるやつだから、よかった。」
かろうじて、そう言う。
「ヘビロテしすぎだよ。色褪せてきてるなって、干すとき思った」
そんなこと言われたら干している姿を想像してしまうし、昔死ぬほどしたピロートークを思い出してしまう。
真夏の夜にエアコンの効いた部屋で、一晩中細い腰が絡みついていた、あの夜。
やめやめ、もう昔の話なのに。
好きだ好きだと言われてあぐらをかいてたあの頃と、全く相手にされてない今。
今は今で悪くないけれど、悶々しすぎて困る。
男は昔の記憶を引きずるって言ってたのって誰だっけ。当たりすぎてて、困る。
君が僕のものだった、夜。
おこがましいわな、もう一回、なんて。
そんなこと思う自分にため息ひとつ。いや、みっつ。
ハイボールのグラスの中で、氷がカラン、と鳴って
調子にのるなよ、と咎められる。
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2017.8.4 15分文学 テーマ「タオル」