15分文学「落とし方」
「良ちゃん、ダメ」
「静かに」
「…ねえ、良ちゃん、ダメ、だってば」
「……」
「本当に、ダメ」
「…信じないです」
「どうして?」
「本当にダメなら、ここに来ないでしょう」
「……」
「そうでしょう」
「…良ちゃん、酔っ払ってる?」
「だとしたら?」
「…ダメ」
「大丈夫ですよ、酔っ払ってるんで」
「……余計ダメ」
「ちょっとだけです。いいからいいから」
「私……」
「わかってます、ダメなんでしょ」
女の人を落とすのは、簡単だ。
いいなと思ったところを褒めて、かわいいと思ったところをかわいいと言って、
駆け引きしようなんて思わずに毎日こっちからバンバン連絡して、
二人で会う約束、なるべくはお酒が飲めるもの、を取り付けるだけ。
家で映画見よう、なんて誘いにのって来たらなおよし。
ありがとう、ネットフリックス。
あとは機を見て、好意が見えたら、押して押して押して押し倒す。
それだけだ。
酔っ払っているなんて自分で言うと、なおさらいい。
相手は、それならいいかも、と思ってくれる。
女の人はかわいい。
そんなつもりなかったのに、なんて言う。
そんなつもりなかったなんて言いながら、おしゃれしててきたな、とわかる。
そんなつもりなかったなんて言いながら、今日は泊まっても大丈夫、と匂わせてくれる。
でもそこはもちろん、そこを指摘なんかしない。
「そんなつもりあったくせに」なんて言わない。
そんなこと言う奴は、全然わかってないよね。
「そうだよねそんなつもりなかったのにね、ごめん」、でいい。
それでいいじゃない。
否定の言葉を弱々しく繰り返す彼女の首筋に噛みつきながら、
こらこらりょーちゃんまたですか、と自分で思う。
ここからはどんな沼が待っているのだろう。
なるべく浅いいといいな、人を無下にするのもされるのも好きじゃない。
確か彼女には、子どもがいたな。
良ちゃん、と呼ばれる度にぞくぞくする。
人は誰しも天邪鬼だね。悪人ほど善良な顔してるっていうし。
まあ、もう今はどうでもいいか。
女の人は情熱的だ。
どんな人も体の奥底で炎を滴らせている。
全部、舐めとらないともったいない。もう垂れてきてる。
先の不安でこれを無視するなんてできない。
そうやって、夜が溢れる。
私はいい名前もらったわ、といつも思う。
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2018.10.10 テーマ「落とし方」